横浜地方裁判所 昭和29年(ワ)326号 判決 1958年1月31日
横浜信用金庫
事実
原告横浜信用金庫は昭和二十九年三月横浜市復興信用組合を合併してその権利義務を承継したものであるが、これより先横浜市復興信用組合は昭和二十五年七月十二日と同月十五日に被告三栄興業有限会社ほか十一名の被告に対し合計二百二十七万円を利息を日歩三銭と定めて貸しつけたが、被告らは弁済期を過ぎても右貸付金員を返還しないので、横浜市復興信用組合の債権を承継した原告は、被告らに対し右貸付金員並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めると述べた。
これに対し被告等は、被告三栄興業有限会社が横浜市復興信用組合から金二十万円を借り受けた事実はこれを認めるが、その余は否認する。被告等が右信用組合と消費貸借契約を締結した事実があるとしても、それは被告会社が借主となつた分を除き次のような通謀虚偽表示によるものである。すなわち、被告会社は昭和二十四年七月二十八日より翌二十五年二月頃までの間に合計二百二十七万円余(未払利息を含む)の金員を借り受けていたが、同信用組合のする貸出については貸付額に関する基準があつて、被告会社に二十万円を超える額の金員を貸しつけることはその基準に反することになるので、同信用組合の契約担当者と被告会社側の契約担当者であつた被告吉岡四郎とは合意の上、形式上借主を被告会社のみでなく、その他の被告等においても借り受けたことにし、被告会社以外の者が借主になつた分については、被告会社は他の関係者と共に保証人になつたことに仮装したものである。而して実質上の借主が被告会社一人であるため、貸金返還義務を負うのは被告会社のみであり、それ以外の者で借主になつているものは債務を負担しなくともよいということであつたので、被告吉岡四郎は同組合と通謀して他の者に計ることなく独断で被告等その他の者をも借主又は保証人と仮装して本件消費貸借契約を結んだのである。従つて被告吉岡以外の者は前記信用組合と消費貸借契約を締結したことはないのであるが、被告吉岡が借主又は保証人として右信用組合と契約したのも虚偽の意思表示によるものであつて無効であると争つた。
理由
被告等主張の本件消費貸借が通謀虚偽表示による無効の契約であるとの抗弁について判断するのに、証拠を綜合すれば、被告吉岡四郎が横浜市復興信用組合と本件消費貸借契約を締結したのは、被告会社は横浜市復興信用組合から、昭和二十四年七月二十八日より翌二十五年二月頃までの間に合計二百二十七万円余の金員を借り受けていたが、同信用組合においては、貸付額に関する基準があつて、被告会社に対する貸付限度額は二十万円程度であつたため、同信用組合の契約担当者と被告会社側の契約担当者であつた被告吉岡四郎(当時の代表取締役)とは合意の上、借主を被告会社のみでなく、その外の被告等その他の関係者においても借り受けたことにし、被告会社以外の者が借主になつた分については被告会社は他の関係者と共に保証人になつたことに仮装したものである。而して実質上の借主が被告会社一人であるため、借主として貸金返還義務を負うのは被告会社のみであり、それ以外の者で借主となつているものは借主としての債務を負担しなくともよいということであつたので、被告吉岡四郎は信用組合と通謀して、他の者に計ることなく独断で被告らを借主と仮装して本件消費貸借を締結したのである。
以上のとおり認められるのであつて、これらの認定事実よりすれば、本件消費貸借における意思表示は通謀虚偽表示による無効のものであるといわなければならない。
よつて被告三栄興業有限会社に対し貸金二十万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があるからこれを認容すべきであるが、他の被告等に対する請求は何れも理由がないとしてこれを棄却した。